学校文法と、これまでの学校文法批判の問題点(4)
※以下の続きです。
学校文法と、これまでの学校文法批判の問題点(1) - 万里一空
学校文法と、これまでの学校文法批判の問題点(2) - 万里一空
学校文法と、これまでの学校文法批判の問題点(3) - 万里一空
ちょっと分割すしすぎて間延びしてる気もしますが……ちなみに少なくともあと1回更新します(!
2.2.代案としてのローマ字活用表
ここまで見てきたように、学校文法の活用表にはさまざまな批判が加えられている。このような批判のうち、(3)語幹と活用語尾の問題に対しては、活用表をローマ字で書くことで改善されるという代案がある。その議論はどのようなものか、確認してみたい。
表2 ローマ字による動詞の活用表
|
語幹 |
未然形 |
連用形 |
終止形 |
連体形 |
仮定形 |
命令形 |
話す |
hanas |
a o |
i |
u |
u |
e |
e |
聞く |
ki(k) |
a o |
i |
u |
u |
e |
e |
見る |
mi |
○ |
○ |
ru |
ru |
re |
ro |
伝える |
tutae |
○ |
○ |
ru |
ru |
re |
ro |
来る |
k |
o |
i |
uru |
uru |
ure |
oi |
する |
s |
i |
i |
uru |
uru |
ure |
iro |
※「聞く」の語幹に「ki(k)」とカッコがついているのは、連用形で「聞いた(ki-i-ta)」のようにkが落ちることがあるからである。
この表で重要なのは、「見る」「伝える」だけでなくすべての動詞の語幹が変わっているところである。たとえば、「話す」の語幹は「hanas」である。ひらがなの場合は「さしすせそ」の子音sだけを取り出して書くことができないので、語幹は「話(はな)」とするしかなかった。しかしローマ字で書くと、実際に「形の変わらない部分」になっているのはsの子音までであることがわかる。ローマ字で表を作ることにより、これらの動詞の語幹を正確に表すことができるのである(同様に「来る」や「する」といった動詞も、本当は子音「k」や「s」が「形の変わらない部分」として共通であることを表現できる)。
またこのような表を作ることにより、活用の種類の違いがわかりやすくなるというメリットもある。各動詞の活用の種類を確認すると、「話す」「聞く」は五段活用、「見る」は上一段活用、「伝える」は下一段活用、「来る」はカ変、「する」はサ変である。それを踏まえて活用表を見なおすと、(1)五段動詞は「a、i、u、e、o」と母音のみが変化し、(2)上一段、下一段動詞は「r」など子音にかかわる変化が起こり、(3)変格活用は完全に例外、という3パターンに分かれることがわかる。ひらがなによる活用表でも、たとえば「話す」は「さしすせそ」の5つの音がすべて現れるなど、ある程度のパターンの分析は可能だった。しかし活用語尾にも子音が入り込んでしまっているため、同じ五段活用でも「書く」なら「かきくけこ」、「話す」なら「さしすせそ」というように、別の5つの音が表に出てくることになってしまう(ここから「カ行五段活用」「サ行五段活用」などの行による分類も必要になった)。しかし「hanas」のように語幹に子音まで含めるようにすれば、すべての動詞をたった3つのパターンで説明することができるようになるのである。
このように「形の変わらない部分」がどこかを厳密に分析すれば、「見る」や「伝える」の語幹を「mi」や「tutae」にすることも、より説得力をもつようになる。語幹の定義が徹底されることで、ダブルスタンダードをとる必要性は薄くなるからである。このように、活用表をローマ字で書くべきだという主張は、語幹と活用語尾の違いが明確になること、活用の種類の学習も容易になることという2つのメリットから行われている。