学校文法と、これまでの学校文法批判の問題点(2)
※学校文法と、これまでの学校文法批判の問題点(1) - 万里一空
の続きです。
2.そもそも、学校文法の問題点とは?
2.1.学校文法における活用論の問題
この節では、そもそも学校文法の内容にどのような問題があるのかを述べる。この点がはっきりしなければ、なぜ文法教育を研究する必要があるのか、またなぜ今までの文法教育研究ではいけないのかをはっきりさせることができないからである。
学校文法は、東京帝国大学教授・橋本進吉(1882—1945)の文法論(別名「橋本文法」)を基礎にした文部省編『中等文法』(1943)をもとにしている。この教科書において、文を「ネ」で切って分析していく「文節」概念が現れたり、「あの」「いわゆる」といった「連体詞」が立てられたりと、現在の学校文法の術語がだいたい出そろう。学校文法は、原型をなんと戦時中までさかのぼることができるのである。
『中等文法』が編纂されたころは、この内容もある程度「最新の知見」と考えられていただろう。しかしそこから現在までの70年間に、日本語の文法研究は大きく進展してきた。それにもかかわらず、学校文法は『中等文法』をもとにした内容を変わらず教え続けている。このことについて、主に日本語学の研究者から、数多くの批判が出されてきている。
では、実際に学校文法にはどのような批判が向けられているのか。ここからは学校文法の問題のうち、活用論の問題について考える(奥津敬一郎(1981)、寺村秀夫(1984)、町田健(2002)、山田敏弘(2004)などを参照)。
現在の国語教科書で、活用論は2年生で扱われる。そこでは動詞の形を6つに分類して、次のような表を作って教えられる。
表1 学校文法における動詞の活用表
|
語幹 |
未然形 |
連用形 |
終止形 |
連体形 |
仮定形 |
命令形 |
話す |
はな |
さ そ |
し |
す |
す |
せ |
せ |
聞く |
き |
か こ |
き い |
く |
く |
け |
け |
見る |
○ |
み |
み |
みる |
みる |
みれ |
みろ |
伝える |
つた |
え |
え |
える |
える |
えれ |
えろ |
来る |
○ |
こ |
き |
くる |
くる |
くれ |
こい |
する |
○ |
し |
し |
する |
する |
すれ |
しろ |
この表に対しては、大きく次の3つの批判が向けられている。
活用表への批判(1) 活用の名称がおかしい
まず、活用形の名称「未然・連用・終止・連体・仮定・命令」が、それぞれの活用形の実態をうまく表していないという批判がある。 たとえば「未然形」という名称は「未だ然らず」、つまり「まだそうなっていない」という意味である。これは「話さない」(打消)や「話そう」(意思)などを見るかぎり正しい。「打消」や「意思」といった意味は、「まだそうなっていない」という状況に合致すると考えられるからである。しかし、たとえば「話される」(受身)や「話させる」(使役)は、「まだそうなっていない」という意味を表しているとはいえないだろう。聞き慣れた「未然・連用……」などの名称は、それぞれの形の実態を完全に表しているわけではないのである。
また、活用形の名づけ方についても、基準に一貫性がないという批判がある。たとえば未然形は「未だ然らず」、つまり「意味」を基準にした名づけ方である。同じように意味を基準にした名づけ方には、「仮定」形や「命令」形がある。一方で、連用形のように「用言に連なる」、つまり後ろの語への「接続」を基準にした名づけ方もある。これと同じものには「終止」形や「連体」形(「体言に連なる」)がある。このように、学校文法の活用形の名づけ方には「意味」と「接続」という2つの基準が混在している。これは、文法論の説明としては不明瞭である。そのため、この点についても、もっと基準を統一した名づけ方にすべきだという批判がある。
ここから、活用形については実態を表し、基準が統一されたシンプルな名称が必要だという批判が出されている。
【参考文献】
奥津敬一郎(1981)「“せしめたしるこ”―学校文法活用論批判―」『言語』10(2)、大修館書店、pp.18-26
寺村秀夫(1984)『日本語のシンタクスと意味 II』くろしお出版
町田健(2002)『まちがいだらけの日本語文法』講談社現代新書
山田敏弘(2004)『国語教師が知っておきたい日本語文法』くろしお出版