めらブログ

国語科の文法教育、作文教育、そのほか教育に関すること。ブログ名をすこし変えました(本名がずっと出るのがはずかしくなって。。。)

SpatialChatを使って学会で交流活動してみたレポ

タイトルのとおり、第140回全国大学国語教育学会2021年春期大会(オンライン)において、オンライン学会における「交流」「雑談」の実現をめざした企画を、SpatialChatというツールを用いて行いました。このポストでは、今後オンライン上での研究交流を企画したい方向けに、SpatialChat(以下スペチャ)を用いた交流のメリットや反省点についてまとめます。

 

SpatialChatとは

まず公式ページから(英語)。

 

spatial.chat

 

最大の特徴は、自分のアイコンを自由に動かし、「近くにいる」人と雑談ができるところです。

 

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スペチャのサンプル

 

サンプル画像を使って説明します。図の中には5人の参加者がいます。この位置関係の場合、「白馬」からすると「きつね」の声は聞こえますが、左側の「がん」「かえる」「かに」の声は聞こえません(相手側からも同じ)。ここでもし「白馬」が自分のアイコンをドラッグして左のエリアに近づけると、だんだん左側の3人の声が大きく聞こえ、「きつね」の声は小さくなっていきます(途中では両方の声が混ざって聞こえます)。

 

こういうふうに、スペチャの最大の特徴は「ルームの概念なくグループ間の移動が自由にできる」「大人数で『ごちゃごちゃ話せる』」といったところにあります。これが今回交流企画で、Zoomではなくスペチャを使った理由です。Zoomも非常に便利ですが、ブレイクアウトルーム間の移動がしづらい(システム的には可能になりましたが、いまのグループの会話をいくつも離席して回るのは心理的にしづらい)ことや、会話のターンが1人に限定されがち(だれかがずっと話し、その間ほかの人はずっと聴く展開になりがち)なのが難点といえば難点です。それに対しスペチャでは、より自由度高く「立食パーティ」のような空気感で交流できます。これは目的によってはZoomより威力を発揮すると考えました。

 

企画概要

わたしが担当していたのは「若手研究交流企画」でした。これは「学会発表するわけではないが研究・教育について話をしてみたい」「ほかの学校の院生や若手教員と情報交換してみたい」「とにかくふだん会わない人と雑談したい」といった人々の交流の場をつくるのが目的です。学会や若手(とくに大学院生)をとりまく状況がさまざまに変化する中で、とくに教科教育系の学会の場合、学会からすると「現場に出てからも学会に途切れずに来てほしい」という思いがあります(おいそがしいのは承知していますが……)。そのために若手院生・若手教員も積極的に参加できるコンテンツとして企画しています。

 

当初の計画では、「関心のあるキーワードを数点書く*1」「キーワードをもとにやんわりグループを作り、あとは自由に交流する」「状況を見て、1回程度『席替え』の時間をとる」といったことだけ決めておきました。あまりこちらが主導するプログラムを設定するイメージではなかったです。

 

よかったこと

以下、スペチャによる交流会をやってみてよかったことを点述べます。

 

(1)コロナ禍における「雑談」の場をつくれた

Zoom等によるオンライン学会の課題として、プログラムの前後の「余白」がないということがあります。対面の学会であれば、分科会で久しぶりの方とお目にかかって挨拶したり、プログラムが一区切りついたあとに質問者と追加のディスカッションをしたり、懇親会で気のおけない人と世間話をしたり……など、さまざまな「雑談」の機会があります。そしてそれこそが、自分の研究のモチベーションになっています(やはり具体的なリアクションがあると気持ちが高まります)。当学会でオンライン大会を行ったのは(規模の大小はあるものの)今回3回目なのですが、この「余白がない」ことが大きな課題に感じられていました。Zoomミーティングの分科会でも、流れで終了後に「感想戦」が始まることはありますが、やはり司会者や発表者メインというか、一聴衆が「あ、○○さ~ん」のように呼びかけたりするのはかなり心理的ハードルが高い気がします。

 

しかし今回この企画ができて、「みんながわちゃわちゃ好き勝手に話している」感覚を久しぶりに味わいました*2。久しぶりすぎて、はじめよく状況が飲み込めませんでした。笑 ふだんお目にかかれない方やはじめてお目にかかる方と、「予定にない話」をするのっていいなあ、と自分がしみじみしていました。この感覚を味わえただけでもやってよかったです。

 

(2)初対面の人どうしがつながる場をつくれた

(1)とも連動しますが、ファシリテーターとして動くなかで、初対面の方どうしをつなぐことも(ほんのちょっとですが)できました。上記のように自由度の高いツールなので、ときには「どっちに行こうかな……」と迷う方も表れます(これも対面の立食パーティといっしょですね)。そういう方がいたらなるべく声をかけるようにしていたのですが、その中で、類似のキーワード(「話すこと・聞くこと」だった気がしますが、必死だったので具体的には覚えていない 笑)を入れている方どうしご案内して「はじめましてー」「あ、はじめましてー」という場をつくれました。そのあと話がどう進んだかわかりませんが、こういうことができたのはよかったと思っています。

 

コロナ禍で、もし「余白」がない期間が長引いていくと、他大の院生と関わりをもたないまま院生生活を終える方も表れるかもしれません。他大の院生との関わりは別に必須ではないですが、研究・教育に関して考えるコミュニティやつながりが小さく、細くなっていくことにメリットはほとんどないと思います。むりにつながりに行く必要はないですが、希望する方にはチャンスが用意されている方が確実に望ましいと思います。もしそういうお手伝いができたのなら、ほんとうによかったです。

 

反省点

(1)参加者リストに頼らない(参加者が「最初に行く場所」を用意しておく)

ここからが、具体的な企画の反省点です。反省点の第一は、冒頭のグループ分けがうまくいかなかったことです。前述のとおり、当初の計画では、入力されたキーワードをもとにグループ分けをするつもりでした。キーワードは、画面右側の参加者リストから確認できます(画像参照)。

 

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スペチャ全体像

(この画像だと出ていませんが、お名前のうえにポインタをおくとプロフィールに入れたキーワードがポップアップします。次の画像も参照)

それで開始時刻を待っていたところ、なんと当日30名以上の方においでいただきまして……*3なお半年前の前回大会の同企画(Zoomミーティングを使用)は8名程度の参加でした。予想以上の満員御礼、これが1つ目の(ありがたい)読み誤りでした。

 

いやそれでもやるしかない! ということでグループ分けを試みたのですが、すぐ断念しました。それはリストのメンバーが入退室を行うたびに随時更新されていくので、グループ分けするためのツールとしては機能しなかったためです。もうすこし具体的にいうと、

 

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リストその1(人が変わる前)

上の画像のように、「A」さんがリストを見て一生懸命グループ分けしようとしているとします。ほう、「ア」さんは「書くこと」がキーワードなのだな、ではほかの方は……などと考えていると、

 

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リストその2(人が変わった後)

「ア」さんが退室して、「甲」さんが入ってきました。このように、遅れて入ってくる方、事情があって退室する方、いろいろいらっしゃいますので、このリストは随時動きます。あとから入ってきた方もうまく分けないと、その方だけお待たせするようなことにもなりかねません。動的なリストを使ってのグループ分けはむずかしい、これが2つ目の読み誤りでした。

 

そういうわけで当日は、こちらからのグループ分けを断念し「近くで似たキーワードの方を探して話してみてください、まずは自己紹介から」といったざっくりした案内だけを行い、あとは個別対応することにしました。前述のとおり、交流自体は盛り上がったのですが、終了後には「楽しかったけど、もうちょっと最初のコーディネートがほしかった」というご意見もあったようです。そりゃそうだ(申しわけないです)。このあたり、もうちょっと周到に準備しておくべきだったと思います。

 

ひとつの解決策としては、参加者が「最初に行くところ」を用意しておくというものがあります。スペチャで参加者がいちばん戸惑うのは、おそらく「入室したとき」だと思います(「これからどうするの?」という状態)。そこで、ピン留め画像で「看板」のようなものを複数置いておき(たとえば「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」……など)、別画像で「まず自分の関心に近いキーワードのあたりに移動してください、細かいグループ分けではあとで行います」といった案内を行います。こうすれば、近いキーワードの方どうし近くに移動してくださると思いますので、「リスト」でなく「本人のアイコン」を見ながらグループ分けできると思います(本人のアイコンにポインタを合わせてもプロフィールの確認が可能)。これなら後から人が増えても、比較的混乱がすくなくグループ分けできるのではないかと思います。またこういうふうに「二段構え」のグループ分けにしておけば、遅れてきた方が途方にくれる可能性も下がります。万一こちらの手が回らなくても、すでにあるグループに合流できる可能性が高くなるためです。このあたりは、スペチャの自由度を甘く見ていたなあ……というのが反省点です。

 

(2)ルームが思ったより広い(何人かで手分けする)

反省点の第二は、スペチャのルームの広さでは個別フォローがたいへんだった、ということです。本企画の責任者はわたし一人なのですが、前回の人出がそこまででなかったこともあり、正式にサポート役をお願いしていたのはお一人(前回参加者のうちの有志)だけでした。そして前述のような状況になり、おそらくうまくグループに分かれられない方もいらっしゃると思うので、個別にフォローせねば……と考えていました。が、あらためてルームの全体像を見ると、

 

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スペチャ全体像(再掲)

けっこう広いんですよね……(ちなみにこれは全体の6割程度で、本当は左と下方向にもうちょっとスペースがあります)。このなかで、うまく交流できていない方に声をかけ、随時ほかの参加者につないでいく……という支援を行うのは、2人ではなかなかしんどいものがありました。

 

またこれは批判でなくてほんとうにありがたい話なのですが、交流の状況の確認のために「なにかお困りですか~」とわたしが話しかけに行くと、「あ! 午前中の課題研究発表*4おもしろかったです! あの○○という点が~」という返答がかえってきて、わたし自身の交流が盛り上がってしまう(ほかのグループを見に行けない)、という現象も発生しました。繰り返しますが、ほんとうにありがたい話です(わたしももっとゆっくりお話ししたかった……)。ですが自由度の高いスペチャのコーディネートということを考えると、おそらく事前に人出を確保しておかないと、いろいろな状況に対応しきれないのだろうと思います。このあたりも、次回は事前に策を練っておきたいと思います……。

 

結論は、やってよかった

ということで、わたしのうかつさもありましたが、企画全体としてはおおむね楽しい時間になったのではないかと思います。これもZoomと別に、スペチャというツールを入れたおかげかと思います。Zoom/スペチャの二元体制がベストかどうかはわかりませんが、結果としてZoomが「かたい」場(分科会中の時間など)、スペチャが「やわらかい」場(分科会終了後の時間など)というふうに棲み分けされていたようにも思います。おそらく次回の大会(本学会は次回もオンラインで行うことが決まっています)でもスペチャは取り入れることになると思いますので、よりよい運用の仕方をまた検討していきたいと思っています。

*1:スペチャにはプロフィール欄があるため、そこにキーワードを記入することができます。そこで任意のキーワードを設定してほしい旨を書いたスライドを画像に変換し、ルームにピン留めしておきました。

*2:今回の大会ではこれと別に「発表交流」という、まさに発表後の「感想戦(追加のディスカッション)」を行うためのプログラムも、同じくスペチャで設定していました。おそらくそちらの企画で同様に交流を楽しんだ方もいるのではないかと思います。

*3:ちなみにスタンダードプランを2アカウント契約していたので、最大で50名×10部屋まで参加できました。本学会の大会参加者は例年300~400名なので、これで問題なく運営できました。なお料金は固定料金の100ドル弱に加え、規定人数、時間を超えた追加料金が40ドル弱でした。

*4:この企画の前の時間、本稿筆者が課題研究発表という学会プログラムで発表していたことを指します。